「採用も営業もノンフィクション」営業から転身した人事が考える、採用業務との向き合い方
働き方やキャリア形成が多様化し、企業における人事・採用のお仕事に注目が高まっています。総合人材サービス会社であるランスタッドの人事・採用担当は、一緒に働く仲間をどんな思いや考えで見つめ、自社の採用業務に取り組んでいるのでしょうか。
現在、勤続17年目となる平原千歳さんは、4年ほど前に営業から人事へ転身し、現在はハイクラス向け人材紹介部門と管理部門、ITソリューションサービス部門の3つの領域の自社採用担当として活躍しています。
2人のお子さんの子育てと両立しながらも、パワフルに新しいことに挑戦し続ける平原さんに、社員を採用する際に心がけていることや、採用担当者として自社の採用に介在する価値についてをお伺いしました。
より多くの人に働く機会を提供できる、採用の仕事が好き
――平原さんは、約13年間の営業を経て、現在は自社社員の採用を担当していらっしゃいますね。なにか、異動したきっかけはありますか?
2006年に入社して、人材派遣部門の営業を8年間、人材紹介部門の営業を5年間やっていました。人材会社の営業は、多様な働き方や仕事の機会をダイレクトに提供できる仕事です。
でも現実には、働きたい気持ちはあっても、自分の条件にマッチする仕事がない、見つけられないから働けないという人がたくさんいます。その一方で、労働力不足になっている会社があるという現状も直でみてきました。
そう思ったときに、1人の営業が求職者の方に提供できる機会には、どうしても限界があるなと思いました。それなら、私が社内の採用担当として、優秀な営業社員を採用することができれば、会社全体としてより多くの求職者の方に提供できる機会が増えるはずと考えたんです。
ちょうどそのタイミングで社内公募が出ていたので、手上げをして、選考を通し、異動しました。
――営業として現場でダイレクトに機会提供していくことが好きな人にとって、営業社員を増やして提供できる機会を増やすという間接的な関わり方は、すこし物足りなく感じてしまいそうな気もします。
そうですね。ただ、私は「働きたいと思っている人に、働く機会を提供していくこと」に意義を感じていて。社内採用に携わることで、自分が採用した営業社員たちが、より多くの方に働く機会を提供できると考えて、総量が多くなる選択をしたように思います。
ーーより多くの働く機会を提供したいとお考えなのですね。
はい。私は、人は人と働くことを通して成長できると信じています。自分にとっては、「働くことによって、みんなが成長できるような機会自体を増やしたい」ということが、一番大事なんです。だからこそ、人材業界の提供している「人と仕事をつなぐ」という仕事がすごく好きなんですよ。
直接、現場で求職者の方に関われなかったとしても、自社の採用担当者として関わっていく方が、結果的に私が人材業界にいる意味を実現できるかなと思いました。
知ったかぶりをしないで理解しにいく
――今は人事として、ランスタッドの社員採用を担当されていますが、今まで営業を経験していたからこそ活かせる部分ってありますか?
めちゃくちゃありますね!採用って、実はほぼ営業職なんですよ。
たとえば、私たち採用担当のKPIには、採用数、Time to Fill、早期退職率などがあります。Time to Fillというのは、その求人が採用開始されてから、候補者が内定承諾するまでの期間のことです。コンサルタントの求人だと、30日間くらいが平均ですね。
さらに、採用して終わりではなくて、その人がちゃんと活躍できるかも重要となるため早期退職率も見ています。
こんな感じで、採用って常に定量的に評価をされる仕事なんです。そして、その数字にコミットしていくことが求められるのが、採用担当なんです。
――採用業務って、実はすごく営業っぽいんですね!!結構意外でした。でも、定量的な数字にコミットするという点では確かにそうですね。
そうなんです。うちの採用チームは全員営業経験者ですね。
さらに言うと、求人を出しても、待っているだけでは候補者には出会えません。自分の会社を知ってもらって、応募してもらうためには、求職中の方に対して自社の魅力を打ち出していかなければいけないんです。そのときは、マーケティング的な要素も必要になってきます。
また採用面接は、直接候補者に会える貴重な機会です。単純に採用・不採用を決めるという視点ではなく、自社の魅力をプレゼンテーションしていくような場でもあります。
候補者の方のお話しをじっくり聞いて、ニーズを把握しながら、自社に対しても「魅力的な社風だな」「おもしろそうな仕事だな」と思ってもらうための対話も必要になる。いろいろなシーンで、営業職で培ったスキルが活かせるんですよね。
――知らなかったです!ちなみに、採用って具体的にどんなふうに進めているんですか?特に、マネジメント層の募集などは、影響力や期待値も大きいからすごく難しそう‥‥。
そうですね。最近、採用に携わったシニアマネージャーの場合だと、最終的には半年くらいの期間をかけて、お互いにじっくり慎重に入社まで進めていきました。
社内で求人が公開された数週間後に、既に候補者の方を見つけていたのですが、ずっと日系企業1社に勤めてきた方だったので、外資系のランスタッドになじめるか、重要なポジションとして活躍してもらえるのか、そして彼女のやりたい仕事に合ってるのか…と、両者にとって懸念になりそうな点がいくつかある状態でした。
ーー半年も!具体的には、どんな調整をされたのですか?
今回の求人採用について権限をもってる部門責任者の方に状況を相談して、最初は本当にカジュアルな面談の場を設けてもらいました。その後、選考が進むにつれて、今のタイミングで誰に会ってもらうべきかを考えた上で、最終的にはCEOとの面接を調整したりもしました。
あとは、面談や面接のあとには必ず候補者へ電話をして、「どうでしたか?」「懸念はないですか?」とか、綿密にヒアリングしたりしましたね。
――候補者へのフォローが手厚い‥‥!もはや採用担当というより、人材紹介会社のエージェントに近い動きじゃないですか?
そうかもしれないですね。もちろん採用担当ではあるし、会社側の人間ではあるんだけれども、第三者的な立ち位置でいることは意識しています。心を開いてもらわないと本音が分からないので。
候補者がどれくらいうちの会社に気持ちがあるのか、その部署の担当と候補者との温度感にずれはないかを常に確認しながら進めていきます。
ただ面接をしているだけじゃ、採用って決まらないんです。候補者と採用したい部署の間に、採用担当者が介在する価値って、「状況をコントロールしながら、両者の間を取り持てること」にあるんじゃないかなと思っています。
――平原さんは、候補者との対話の中で、言葉の意図や真意を読み解いていくのだと思いますが、そういう対話力や本質を掴む力は、どうやって培ったんですか?
もちろん場数もあるとは思いますが、何よりも知ったかぶりにならないことが大事だと思っています。分かりすぎない。理解しすぎない、というか。
面接でも普段の会話でも「きっとこういう意図で話しているんだな」と、勝手にこちらが解釈して進んでしまうことって、どうしてもあると思うんです。でも、そのまま話が進むとよくなくて。
ーーたしかに。平原さんはそういうときは、どうされるんですか?
「なんでそう思うんですか。どういうきっかけでそう思ったんですか」というのを、都度、聞いていきます。勝手にわかった気にならないで、本人の価値観で話をしてもらうことが大切なんじゃないかなと。
基本的に人材業界にいる人ってみんなコミュニケーション能力が高いから、勝手に汲み取りすぎてしまう部分があると思うんです。だけど、それをあえて本人に聞くことで、その人の価値観がわかることは結構ありますね。逆に「なんの意図もないのかーい!」みたいなこともありますけど(笑)
――とても勉強になります。一方で、会社側の要望や意見を汲み取った採用をすることも、平原さんのお仕事だと思うのですが、対社内の目線で意識していることってありますか?
そうですね。人を採用することは、その組織をどうしたいのか、チームをどうするのかという話につながると思っています。だからこそ、求人募集している組織責任者の考え方や、CEOなど経営層の考え方をきちんと理解して、彼らをフォローワーシップしていくことも必要だと思っています。
採用した人たちがきちんと活躍できるためにも、それぞれの立場をきちんと理解してコミュニケーションを取って、フォローアップしていくことは大事なのかなと。その観点でいえば、採用業務はもちろんですが、働きたい人が気持ちよく働けるための組織や環境づくりにも関心がありますね。
ノンフィクションも営業も、予想できないから楽しい
――お話を聞いていると、ただ自分の仕事だからと採用をしているのではなく、組織を良くするための採用という、より高い視座でご自身の仕事を捉えていらっしゃるなと感じます。そう思うようになったきっかけは、なにかありますか?
組織や企業が成長するために「人」は必ず必要で、採用は組織にとってすごく重要だと常に思っています。だからこそ、人材ビジネスにも誇りをもっているし、人材会社の採用担当としてやりがいを感じていますね。
ちなみに、わたしたち採用チームのビジョンは「hiring driven growth」で我々の採用によって事業に成長をもたらすことを目指しています。
あとはうーん、なんだろう。直接関係あるのかわからないんですけど、私、ノンフィクションとかドキュメンタリーが好きなんですよね。ノンフィクションを見ていて、そういう考え方もあるんだ!こういう人生もあるんだ!というふうに、その人の価値観を知ることにも興味があるし。
でも特に、そこで描かれてる人って、大抵はなにかしらの仕事をしていると思っていて。今までの仕事や働く環境が、その人の生き様やドラマに少なからず影響しているんじゃないかと思うんです。
やっぱり人は生活をしていく上で、仕事をすることからは避けられないので、何の仕事をしてるかとか、どんな仕事観なのかとかがすごく気になります。
――おもしろいですね。そういう考え方は子どもの頃からお持ちなのですか?
どうでしょうね。でも、もしかしたら、親が自営業なので、その商売人気質が染み付いているのかもしれないですね。人と関わることが好きなのも、売り上げにコミットする性格も。根っからの商売人の家に生まれたので、どうしても営業的要素のある仕事に惹かれるのかもしれないです(笑)
――仕事も数字にコミットすることも好きなんですね。数字が重荷になる人も多いなかで、楽しめるってすごい!才能ですね。
うん、数字大好き!(笑)
営業時代は、毎月売上や利益がいくら出たかを確認することがすごく楽しかったです。
営業も採用も、もちろん楽しいことだけじゃなく、辛いこともいっぱいあるけどね!
ーーそれも含めて、ノンフィクションですからね。
そう!あ、わかった。ノンフィクションもドキュメンタリーも営業も採用も、私にとって予想ができなくて刺激的なんです。事実は小説よりも奇なりというか。
最近は、採用業務と並行して新規事業にも関わらせてもらっているのですが、それもどこかで刺激を求めているからなのかもしれないなと、話していて思いました。
ーーすごい。日々、刺激を求めてるんですね!ガス欠みたいになることはないですか?
ありますよ。「何もできてないじゃん私…」みたいなときがたまにあります。
あと、仕事でいつも話しすぎているので、家の中では疲れちゃってあんまり話したくないし‥‥(笑)夫はすごく静かな人なので、ちょうどいいんです。
ーーさっきまでの話とギャップがあって意外でした(笑)
そうでしょ?あと、深夜にパズルを黙々とやったりもします(笑)
たまにやるとすごい集中しちゃって。気づいたら2、3時間経ってることもありますね。
ーー仕事で刺激を求めている一方で、家ではオフなんですね。これからも、仕事は変わらず人事領域でのキャリアを重ねたいとお考えですか?
そうですね。仕事は続けていきたいし、働ける限り働いていきたい。でも、それも家族の協力があるからできていることなので、すごく感謝してますね。
人事の仕事もやりがいを感じる一方で、またいつか営業に戻ってもいいかなとも思っています。やっぱり営業社員の話を聞いてると、楽しそうだし、またやりたいなという気持ちが出てくるんです。もちろん、大変なことはいっぱいありますけどね。
でも今は、今できることをやっていこうと思っています。
――人事や採用のお仕事のお話から、平原さんのバイタリティの裏側にあるマインドまで、そんな視点があったんだ!というワクワクするお話を沢山ありがとうございました!