「オープンにキャリアを語り、訪れたチャンスに飛び込む」外資系人材会社の採用責任者が考える、自分らしいキャリアの築き方
さまざまなキャリアを持つ社員が在籍するランスタッド。その人事本部で2つのチームの責任者を担っている西野雄介さんもまた多様な企業を渡り歩き、独自のキャリアを積んできた一人です。
今回は「グローバルリーダーになる」という自身のキャリア軸を持ち続け、ランスタッドの人事本部で2つの部署を率いる西野さんに、これまでの経歴やキャリアについての考え方をお話しいただきました。
一人よがりにならない自分軸のつくり方など、自分らしいキャリアを築いていくためのヒントをたくさん伺い、私自身もとても参考になる取材でしたので、皆さんにもお伝えできればと思っています。取材を実施したのは、マーケティング部のはせがわです。
転職を考えている方や、今よりも自分のキャリア軸に沿った仕事をしていきたいと考えている方の参考になる内容になったかと思いますので、ぜひ最後までお付き合いください。
高校進学も危ぶまれる中で芽生えた、「グローバルリーダーになる」というキャリア軸
――まずは西野さんのご経歴を改めてお伺いしながら、なぜ今、”ランスタッドの人事”というキャリアを選んで働かれているのかについてお伺いしたいです。
西野:そうですね。もともと人材業界は長くて、新卒で入社したのはJAC Japan(当時)という人材会社でした。その後、エンワールドで働いて、シンガポール法人のカントリーマネージャーとして立上げや経営に携わりました。その頃のお客さんだったのがユーザーベースで、そのご縁でユーザーベースに転職して働いて、ランスタッドにタレントアトラクションチームの責任者として入社しました。
ランスタッドに入社したのは、自分のなかにずっとグローバルリーダーになりたいというキャリアの軸があり、グローバルカンパニーで働きたかったという理由があります。
――グローバルリーダーになりたいと思ったきっかけは、何かありましたか?
西野:僕は大阪生まれ大阪育ちで、世界との関わりがないような下町で育ちました。しかも、勉強も全然できなくて…(笑)
中学校3年生のときの三者面談で、「このままでは高校は行けないですね」といわれるくらいでした。
従兄弟に家庭教師をしてもらい、3ヶ月間勉強してギリギリ入れた高校は、40人くらいのクラスメイトが卒業時には29人退学しているような高校でした。正直なところ、授業もほとんど成立していないような状態で…。
でも、ある頃から東京へ行きたいと思うようになったんですよね。親も「大学に行くなら東京に行ってもいい」というので、受験勉強をはじめました。
当時その学校では、真面目に授業を聞いたり勉強している生徒が少なかったこともあって、放課後に1人で勉強していたら、先生たちも親身になって教えにきてくれたんです。
そのなかで仲良くなったのが、英語や日本史の先生でした。海外や国内外の文化を知るうちに、少しずつ自分の世界や興味が拡がっていったような感覚があります。
――世界と少しつながるのですね。受験勉強の結果はいかがでしたか?
西野:36校受けて、全部落ちました(笑)
なにせ勉強の仕方も知らなかったので、いきなり志望校の赤本と英語の辞書を買って問題を解いたりしていたんです。長文読解の問題に出てくる単語がわからなくて、文章を最初から読んで、わからない単語をそのつど辞書を引いて調べていく‥‥みたいなことをしていましたね。
その後、浪人して入った予備校ではじめて勉強の仕方を教えてもらったように思います。勉強の仕方がわかると楽しくなってきて、その結果、翌年に国際学部に受かりました。大阪の下町から横浜にある大学の国際学部に行って、世界の大きさを実感していきましたね。
大学では東南アジアの開発経済を学んで、就職活動のときにはもう「グローバルな仕事がしたい」という思いを持っていました。そこで、日本人がイギリスで起業して世界に広がった人材会社であるJACに入社して、キャリアをスタートさせました。
――就職までに、そんなドラマがあったとは知りませんでした!(笑)あらためてのお伺いになってしまいますが、ランスタッドでの現在のお仕事も教えてください。
西野:今は主に2つの部署をマネジメントしています。
1つはタレントアトラクションです。
このチームでは、採用活動とエンプロイヤーブランディングを行っています。採用活動はイメージ通り、社員を採用する仕事ですね。エンプロイヤーブランディングでは、採用をより深く質の高いものにしていくために、オウンドメディアを立ち上げたり、ホームページやSNSで情報発信をしたり、イベントを開催したりしています。
もう1つがHRエクセレンスです。
ランスタッドの人事の中には、タレントアトラクション、タレントマネジメント、HRビジネスパートナー、リワード、ED&I、HRオペレーションという6部署があるのですが、この6部署を横串でサポートする7つ目の部門がHRエクセレンスです。
HRエクセレンスチームでは、専門性の高い業務を行う6つの部署ではやらない業務やどこの部署でも共通している業務、複数の部署が関連して行っている業務をサポートしています。
オペレーション構築や業務改善のためのシステム導入、課題解決のプログラムマネジメントもHRエクセレンスの業務です。去年立ち上がったばかりの部署ですが、人数も増え、業務も拡大しているところですね。
キャリアのオプションを複数持って、タネをまいていく
――先ほど、新卒就活の頃には「グローバル」というキーワードが頭にあったと伺いました。今は、グローバルリーダーになるために意識していることはありますか?
西野:常に意識していることは3つあります。グローバルリーダーになるという軸に沿って行動すること、自分をオープンにしておくこと、自分に何ができるのかを考えておくことですね。
あと、いつもキャリアのオプションを心の中で3~4つは持つようにしています。いろんな場面でいろんなタネをまいておいて、良いチャンスがきたら収穫する感じで今までやってきました。
――キャリアのオプション。それは例えばどんなものを指すのでしょうか?
西野:例えばエンワールドでは、シンガポール法人を立ち上げて、一つの会社の責任者として勤めていました。そのときも目の前の仕事にはコミットしながらも、長期的にはどんな道があるだろうということは考えるようにしていて、3つの道を意識していました。
1つめのオプションは、責任者としての責任範囲を広げていくこと。2つめは、これまでの経験を活かしながら人事にも挑戦すること。3つめは全く違うことをやること。教員免許を持っていたので、それを活かして教育に携わってみたこともありましたね。
また、自分の中に複数のオプションを持った上で、会社とも自身の次のステップについての対話を続けていました。
今すぐ何かをしたいということではなかったのですが、責任者という立場になって5~6年くらい経った頃から対話をはじめていて。自分のキャリアをこの先の長いスパンで考えたときに、会社とも対話していく必要性を感じての判断でしたね。
――ご自身の次のステップについて会社にも伝えていたのですね。先ほど話されていた、”タネをまいておくこと”についても詳しくお伺いしたいです。
西野:例えば、シンガポールでは日本人学校補習授業校の教員も経験したのですが、それは飲み会での会話がきっかけでした。
シンガポールで働く間、シンガポールの日本商工会議所に会社のメンバーとして入っていたのですが、そこでたまたま日本人学校の理事長をされている方と飲み会で同席して。「実は教員免許を持っていて、いつか教員免許を活かしたい」という話をしたら、「土曜日に日本人学校に教えに来てよ」という感じで話が決まったんです。
こんな感じで、会話の中でまいたタネがかたちになる経験が何度もありました。なので、複数のオプションを持つこと、それを人に伝えてタネをまいてくことは常に意識していますね
誰にでもオープンでいることで、チャンスが巡ってくる
――ユーザーベース社で勤務されていたと伺いましたが、勢いのあるスタートアップでの仕事はいかがでしたか?
西野:世の中に新しい価値をもたらす仕事をしている会社の思考法はすごく面白かったですね。
人材会社のビジネスモデルというのは昔からあるもので、一つ一つの質を高めていくことが人材会社の面白みだと思います。
一方のユーザーベースは、まだ世の中にない価値を生み出したり、新しいプロダクトや世界観を生み出す会社です。既存の価値観や考え方にとらわれずにクリエイティブを考えたり、人と人との対話の中で新しいものを作っていく。その思考法はすごく勉強になりました。
――お話しを伺う中で、西野さんは飛び込んだ場所にあるものを吸収したり、柔軟にご自身の考えを変えたりされるのが得意な方なのかなと感じました。
西野:その道をどう進むかを綺麗に描いているわけではなくて、目の前にやってきた機会やそのときの心の持ちよう次第で、つど行動していますね。自分をオープンな状態にしておくことで、来たチャンスに飛び込んできた感じです。
ただ一方で、グローバルリーダーになるという軸は、常に強く意識しているものでもあります。
例えば「日系企業の採用を世界レベルに通じるように立て直してほしい」というお誘いを受けることもあって、面白そうだなとも思うんですよね。でも、それは自分が目指したい軸とは異なるなと思うと、冷静に判断ができるようになるというか。
――そうなんですね。一見、そのお誘いもグローバルリーダーになり得るポジションにみえます。
西野:僕には、自分が日本人であるがゆえにできている仕事から脱却したいという気持ちがあります。例えば、今、世界的に活躍しているプロ野球選手は日本人だから評価されているのではなく、野球がうまいから世界に評価されているわけじゃないですか。僕もそういう存在になりたい。
そういう意味で、日系企業でグローバルに関する業務をすることの前提には、”僕が日本人だから”という理由が少なからずあるのだと思います。
でも、国籍がないくらいグローバルに展開している企業だと、日本人だからという理由で選ばれることがなくなるのではないかと。採用の知見があって、エンプロイヤーブランディングの成功事例があるという実績が評価されて、リーダーとしてアサインされる。そういう存在になりたいなと思っています。
――ちなみに、ご自身の目指すキャリアに向けて、ランスタッドで業務に取り組む以外に、今なにか取り組んでいることやアンテナを張っていることはありますか?
西野:Forbesでコラムの連載をしているのも一例ですが、自分のキャリアに関する話を誰にでもオープンに話していることが何よりも大きい取り組みかもしれません。社内外問わず、いろんな人に自分の考えていることを話すと、新しい情報が入ってくるので。それがアンテナになっていると思います。
ルーティンの力を利用し、自己認識が高い状態を維持する
――自分が目指すキャリアを築く上で、自分のやりたいことと、まわりが自分に求めていることにギャップを感じることもあると思うのですが、このあたりはどのようにお考えですか?
西野:人事っぽい表現ですが、ギャップについては常に市場と対話をすることが大切だと思っています。
自分ができることと世の中に求められているものをかけ合わせること。そのためには、自分に何ができるか、自分のテクニカルの強みは何で、ソフトの部分の強みが何かという自己認識を常に高い状態で維持しておくことが重要ですね。
そして、自己認識を高めるためには、やっぱりいろんな挑戦をして、失敗をすることが大事だと思います。悩んだり、苦しんだりしたときに、人の本質は出ると思うので。
自己意識が高い状態を維持しつつ、今の世の中で求められていることは何かを認識すること。もっというと、キャリアを築く上では、世の中の変化に対しての感度を高めていくことが大切なのだと考えています。
――世の中の変化や情報は、普段どうやってキャッチしていますか?
西野:本を読んだり、Podcastを聞いたり、ニュースやSNSを見たり、あらゆるものから得ています。先ほど話した、3つのオプションを常に持っておくことと同じで、情報をキャッチすることも生活に組み込んでいますね。
通勤のときにはPodcastを聞くことをルーティンにしたり。やろうと思ってやるというよりは、自分の人生に組み込んでしまうというのも心がけていることの一つですね。
読書については、チームメンバーの育成も含めて読むこともあります。
メンバーが学びたいことと自分が知りたいことが合致したときには、同じ本を読んで、お互いにその本から学んだことを共有するんです。各メンバーの学びたい分野に合わせて別々の本を読むと、僕は毎週3冊、4冊読むことができるので、これもルーティンにしていますね。
――西野さんは、仕事や会社を”活用する”という意識をお持ちなのかなと感じました。自分のためとチームのための読書をルーティンに組み込む発想、勉強になります!
西野:そうかもしれないですね。それも自己認識だと思っています。僕も心が折れることもあるし、ダラダラしようと思ったらいくらでもダラダラできる。だから、ひたすら自己認識を高めていった結果、ルーティンや仕組みにすることにしました。
あと、毎日のルーティンがあると心の乱れがわかるようになるんです。毎日同じ時間に起きて、毎日同じPodcastを聞いて、音楽を聞くのですが、「今日は音楽が心に入ってこないな」とか「聞き流しているな」とか自分の心の乱れに気づくことがあります。
自分で心の乱れに気づけるようになると、ある程度は自分をコントロールできるようになると思っていて。それならいつも走らないコースを走ってみようとか、瞑想して心を落ち着けてから仕事を始めようとか、日々自分の状態をチューニングして整えていますね。
全てのことは見る方向や捉え方を変えれば、ちがって見えてくる
――ここまで仕事やキャリアのことばかりお伺いしてきてしまったのですが、西野さんの休日の過ごし方なども教えてください。
西野:出身が関西なので、子どもにツッコミを教えるのは趣味ですね~(笑)
子ども2人はシンガポールで生まれ育って、今は東京に住んでいますが、ひたすらボケとツッコミを教えてきたので、うちの子たちのノリツッコミはすごいですよ!
――ツッコミの英才教育....!意外な一面ですね(笑)西野さんのプライベートでのキャラクターなども知りたいです。
西野:うーん。僕はいつも、なんとかなる精神で乗り切っているタイプですね。これは仕事の話になってしまいますが、以前大きなイベントがあったときに、途中でイベントのスケジュールがガラッと変わったことがあって。周りのメンバーは慌てふためいていましたが、そういうときも「なんとかなるだろう」という感じでした。実際、なんとかなりました(笑)
でも、僕自身めちゃくちゃおっちょこちょいなので、僕だけではいろいろなことが形になっていないと思いますね。実務をしっかり実行してくれる、周りのメンバーの皆さんがいてくれてこそだなと思います。
――ここまでお話しを伺ってきて、西野さんは「芯もあるけど、しなやかさもある人」なのだなと感じます。それはご自身で意識していることなのでしょうか?
西野:ランスタッドに入社して、より意識するようになりました。
何事も確固たる答えはないと思っていて、全てのことは見る方向を変えれば、答えも変わると捉えています。その瞬間その瞬間にみんなで議論して正しいと思う方向に進めばいいし、自分が強く意志を持てることが生まれたときには、そこから議論していけばいいと思っています。
でも実は、そう思うようになったのは、根本的に自分に自信がないからでもあります。自分が絶対正しいという意識は全く持っていないし、もしかしたら何か違うんじゃないかなという意識のほうが強いんです。
でも、自分に自信がないと伝えても、まわりからは「そんなことない!」と言われるんですけどね(笑)
――そうなんですね(笑)最後に、西野さんが今後目指していくビジョンについてもぜひ伺いたいです。
西野:価値観や考え方など、人とキャリアが有機的にマッチングしていく世界が実現できたらいいなと思いますね。
誰かに押し付けられて何かが起こるわけじゃなくて、自分の意思と会社のマッチングが自然に起こる。それが実現できていくとすごくいい世界になると思うし、それこそがすごくハッピーな働き方だなと感じます。
僕は、1人1人が幸せであればいいと考えていて。幸せは個人が決めることだから、誰かの人生に口を出すことや、人の意見や価値観に意見することはほとんどしません。誰もが自分らしく生きればいいと本心から思っています。
それはある意味では個人主義なのかもしれませんが、そういう自分の考えとランスタッドが掲げる多様性の価値観はフィットしていると感じます。こういう世界を広げていきたいですね。
――学生時代のユニークなエピソードと、そこで芽生えた夢を持ち続けて、様々な会社でのキャリアを積み上げてきたご経験。たくさんの興味深いお話しをありがとうございました!
取材:長谷川美果
執筆:花沢亜衣
編集:水野圭輔、長谷川美果