大喜利を“提案と探求の言葉遊び“と捉え、仕事に活かす。大喜利ファシリテーターの山本ノブヒロさんに聞く
突然ですが、ランスタッドでは毎年11月23日の「勤労感謝の日」を大切にしています。従来は勤労感謝の日というと、家族の中で働いている方に感謝を伝える日というイメージがありました。でも近年は老若男女問わず働いている人が増えていることから、働く人同士も含めて、お互いに感謝やギフトを伝え合える日にしていけるといいなと思っています。
こんな思いもあり、ランスタッドでは2024年に3年目となる「勤労感謝ウィーク」を開催します。そのなかで今回は「第一回おしごと大喜利フェス」として、勤労感謝にちなんだ大喜利のお題への回答をランスタッド公式Xにて、10月25日より大募集します!
とはいえ、いきなり大喜利と言われても考え方も作り方もわからないという方がほとんどだと思います。この記事では日本唯一の大喜利の研究者であり専門家の山本ノブヒロさんにお話を伺い、大喜利とはなんたるかを教えてもらいました。
お題にボケるプロセスと構造、環境設計を「大喜利メソッド®」として体系化し、体験型ワークショップを通して企業研修や高校・大学の授業に活用するプロフェッショナルによる、大喜利脳の活用講座をお届けします。
ラジオのハガキコーナーでの出会いから大喜利をビジネスにするまで
――今日はよろしくお願いします!山本さんは大喜利の専門家ということですが、まずは今のお仕事について教えてください。
山本:
よろしくお願いします!今は大喜利活用ビジネスを本業としながら、副業で大学教員としてキャリアデザイン等の授業を持っています。もともと大学院で学習環境デザイン、教育社会学を専攻し、教材開発や参加型の授業作り、学習環境デザインなどを研究していました。その経験も生かし、教材としての大喜利活用に取り組んでいます。
――大喜利を教材にするという発想、ユニークですね!大喜利との最初の出会いはなんだったのでしょうか?
山本:
中学生の頃、不登校だった時期に深夜ラジオをずっと聞いていたんですよね。その中でも特に、視聴者から寄せられるハガキを読むコーナーが大好きでした。いわゆるハガキ職人の人たちのお便りが読み上げられるたびに、世の中には面白いことを考えている人が沢山いるんだなと思いましたね。当時は勇気がなくてハガキは出せませんでしたが、自分ならこう書くかな?どう考えるかな?などと、いつも考えていました。
そんなある日、無理やり学校に連れていかれたときに、授業中に先生が生徒たちに無茶振りしてたことがあって。そのとき自然と「こんな時、ハガキ職人だったらなんて返すんだろう 」と感じられて、思いついたことをぼそっと言ってみたんです。そうしたら、隣の席の人が笑ったんですよね。普段は僕のことを無視しているくせに(?)、面白いと思ったらちゃんと笑うんだな、と思って。強い手応えのようなものがあって。
その日から、いやいやでも学校に連れて行かれた日には、誰か一人でも笑わせたら帰っていいというゲームを始めたんです。今思えば、それが大喜利の原体験ですね。
――その後、大喜利をどうやって仕事にしていったのですか?
山本:
20 代の頃は、大喜利はあくまでも趣味でした。mixi を通じて知り合ったアマチュアの大喜利フリークと一緒に趣味で大喜利を楽しんでいました。一方で、仕事は会社で社内の情報システム担当としてツールの使い方を教えたり、社内セミナーの企画や教材作成、講師をしていました。
大喜利が仕事になるかも、と思うようになったきっかけは2つあります。
1つ目は、プロアマ混合の大喜利大会に参加したときのことですね。たまたま控室で隣に座った漫才師の1人が、「今日は隣の人の回答が聞こえてきちゃって、自分の回答に集中できていなかった」というような話をしていたんです。僕、それを聞いて「周りの人の回答、聞かないようにしているんだ」ってびっくりしました。よくよく考えてみると、彼らは漫才師として、1本の作品としてのネタを創作している「コンテンツビジネスのクリエイター」だからなのかもな、と納得しました。
でも一方で、僕は、他の人の回答も聞いていたし、お客さんの反応も見るし、その場でのお題に対してのウケ具合や流れをみながら自分の答えを考え、時には変えていくような大喜利をしていました。
要は、僕は大喜利を勝負というより、コミュニケーション的・対話的なものだと考えていたんです。その日のお題と出演者、その場の雰囲気や掛け合いなどの大きな流れの中で、自分の回答が良いものに、いい役割にできた結果、大会で芸人さんたちと勝負して勝ち進めることも何度もありました。
ただ、そうやってライブやイベントに出る経験を重ねるうちに、芸人さんと勝負して勝つより、大喜利を教材や参加型アクティビティとして磨き上げて、一般の人と楽しんだ方が、いろんな人の役にも立てるし、自分自身の喜びにもなるのではないかと気づいたんですよね。
――大喜利はコミュニケーションツールだったのですね。もう一つのきっかけも知りたいです。
山本:
当時の会社の役員が、僕が趣味で大喜利ライブや大会に出ていることを知っていたのですが、ある日「さっき行ってきたマーケティングのカンファレンスイベントで、大喜利企画があったけど、激しくスベっていたよ‥!」と教えてくれたんです。詳細を聞くと、お題の出し方もMCの振り方も良くなかったようで‥‥(笑)あまり大喜利をわかってない方が企画したんだろうなと感じました。
それを聞いて、自分が大喜利をコンサルしたらおもしろくできるかも、と感じたんです。
いろんな人に自由にボケてもらうためのノウハウを教えたり、ボケたい人はよりボケやすく、楽しむ側もより楽しみやすくする場作りや設計、組織や課題に最適化した大喜利づくり、言わばファシリテーションが自分ならばできる、と思いました。
大喜利もビジネスも、想像すらしていないものが生まれるほうが面白いじゃないですか。大喜利の考え方を知り、大喜利という営みをうまく使えば、より大きな価値を創出するような新企画も生まれるかもしれないな、と。
半日くらい悶々と考えて、その日の夜のお風呂のなかで「よしビジネスにしよう!」と思い、その半年後くらいに会社をやめました。
――その上司の方もびっくりですね(笑)。ビジネスにすることを決断したあとは、何から始めたのでしょうか?
山本:
2017年に青山学院大学でワークショップデザインを学び直し、参加型学習プログラムとしての大喜利ワークショップを確立しました。その後「大喜利ファシリテーション®」による学習支援業をスタートさせます。
最初は学校や若者支援の現場など、教育に活かせないかと考えていたのですが、学校への導入は「賑やかしのスポット開催」に終わってしまうことが当時は多くて…。企業の課題解決や人材育成への親和性が高いのでは、と考えが変わっていきました。
2018年1月からは日本初の習い事としての大喜利教室を開講し、半年もたたないうちに満席となりました。2019年からは法人向けの事業もスタート。企業や団体の研修・講演・アイデア創発セッションなどを提供しています。
ユーモアは共感性と意外性の掛け算
――ここからはぜひ、大喜利についてお伺いしたいです!そもそも大喜利がどんなものなのか、教えていただいてもよいでしょうか?
山本:
大喜利とは?を言葉で説明すれば、“お題に対して、複数の回答者が、その場で洒落の利いた回答をして、面白さを競うもの”だと思うのですが、僕はそこに「提案と探求の言葉遊び」だよ、という説明を必ず添えています。
ボケはあくまで相手への提案であり、シンキングタイムはより良いものを目指す探求の時間、という考え方です。
お題が出された瞬間、芸人も素人も、先輩も後輩も、回答者も見ている人も、みんなが同じお題について考えるんですよね。その瞬間はみんな平等に同じ対話のテーブルにいるような気がしていて。その日その時、そのメンバーで、そのお題に取り組んだからこそ生まれる面白さに出会えるか。これが大喜利の醍醐味だと思っています。
――私はあまり面白いことを言うのが得意ではないのですが、大喜利で面白い回答を考えるコツや方程式を教えていただけませんか‥‥?
山本:
もちろんです!ワークショップでは、「ユーモアは共感性と意外性の掛け算でできる」ということを教えています。共感性があるというのは”言っていることが理解できること”、意外性があるというのは”自分じゃ思いつかないようなこと”ですね。
だからこそ、スベるのにも理由があります。
例えば、共感性はあるけど意外性がないとき。要は、”それは当たり前だよってみんな思っている”ときはスベります。もう1つは、注意を引くことを言っているけど、”イマイチ何を言っているのかわからない”ときです。
センスがない、あるいは間違ったことを言っているからスベるわけではなく、相手にとって「当たり前だった」か「分かんなかった」かのどちらかなんですよ。そういう意味でいうと、オモシロを創るためには、特別なものを研ぎ澄ませていくより普通のことを磨き上げていくことのほうが大事なんです。
あとは、相手によって共感するポイントや意外だと感じるポイントが異なるので、「どんな人に伝えるのか?」を考えられると、より意図的にユーモアを作れますよ!
――ユーモアって狙って作れるんですね!当たり前の発想を当たり前ではなくしていく方法や、普通のことを磨き上げていく方法は何かありますか?
山本:
テクニックはいくつかあります。例えば、最初に思いついた当たり前のことを具体的にしてみる、細分化してみるだけでも、少し面白くできるんです。
「お酒が好きです」と答えるのと、「ストロング缶が好き。いつも500ml缶です」「カップ酒が好きです」と答えるのでは印象が違うじゃないですか。具体化や細分化をするだけで意外性が付与されるし、その商品を知っている人にとっては「この人がそのお酒を飲んでいるんだ」と明確なイメージを描くことができるようになって、より強いギャップを感じて面白くなりますね。
――たしかに!もう一つくらいテクニックがあったら教えてほしいです。
山本:
タレントや芸人など、誰かひとりを思い浮かべて、「この人ならこんなこと言いそう」と考えていくのもテクニックの一つです。わたしは「憑依ボケ」と呼んでいるのですが、マツコ・デラックスさんならこんな言い方しそう、小泉純一郎さんならこんな切り口で言いそうと考えて、その人の視点や口調になりきってみると思いつきやすいですね。
大喜利のボケというのは、特別おかしなことを言うと意外とウケない事も多いんですよ。ウケるのもスベるのも、相手の認知とのマッチングの結果なので。なので、まずは自分が思いついたことを気軽にシェアして試すことが大切になってきます。自分が面白いと思ったことを、他の人が面白いと思ってくれるのかどうかは、伝えてみなくちゃわからないので。提示してみてブラッシュアップ、を繰り返すといいと思います。
さきほど「提案と探求」と説明したように、大喜利は「これ面白いですか? 」と提案してみて、「それ、面白いじゃん!」となるかどうかを試す遊びなんですよね。
大喜利から生まれる相互理解
――山本さんは大喜利の研修やワークショップをされていますが、会社などの組織で大喜利をやるとどんな効果があるのでしょう?
山本:
第一に社内コミュニケーションの向上です。新入社員研修やチーム力向上など、多くの現場に導入しています。
コミュニケーションって、ロジックやスキルがあっても「マインド」が伴わないとうまく機能しないのですが、大喜利はスキルだけでなくマインドアップやマインドのストレッチに大きな効果があるのが強みだと考えています。
例えば、そもそも上司が部下に理解されようと思っていなかったり、部下が上司と仲良くしたいと思っていないところに「心理的安全性が大事なのでなんでも相談してね」と言っても、何度1on1を重ねても、本音の相互理解なんて出来るわけがないんですよ。
余計なことを言わないことで、リスクを回避しようとする場合って多いじゃないですか。独自の視点や発想を披露したり、気づいたことをシェアすることが「損」だと思っている人がそもそも多いんですよね。
でも、一緒に大喜利を体験することによって、思いついたことをシェアしてみよう、自分のオモシロが相手のオモシロになってくれるかを試そう、という経験ができると、結果として自分の発想・発信で仲間が笑ってくれた、普段は怖い上司のボケで自分も笑っちゃった、みたいな「体験」ができる。
発信がウケる「面白い」と感じるかどうかの基準は、実は自分の中にはなく、相手の中にしかない、というのが僕の大喜利メソッドの根幹にあります。オモシロの種が芽吹くかどうかは受け取った相手の感性次第。でも、「同じ種」で、自分にとっての花咲く環境が、相手にとっても花咲く環境だったら、めちゃくちゃハッピーでラッキーじゃないですか?
この体験を繰り返していくと、自分の考えを隠しておくより、シェアした方が誰かにとっての発見や喜びにつながるかもしれない、という「発信したほうが得かも、のマインド」になっていきます。逆もしかりで、上司に相談するのはめんどくさい、人の話に興味がない、と思っていたけど「もしかしたら自分にない角度、視点、オモシロがあるのかもしれない」と思える。そうなると、自分が気づいたことは言いたくなるし、相手の意見を聞きたくもなるんですよ。人は基本、ハッピーでラッキーでいたいので。
――なるほど!大喜利でマインドが変わるんですね。
山本:
チームビルディングでは相互理解の促進が必要ですが、その根幹にあるのは相手へのリスペクトです。自分の発信で相手が笑ってくれたこと、相手が発信してくれたことで笑ったという経験は、相手の存在がいないと絶対成り立たないことなので、リスペクトの感情につながりやすいんです。
――仕事のいろいろなシーンで応用できそうなマインドですよね。
山本:
そうですね。なにかの企画を考えるときにも自分一人で悶々と考えるより、誰かとシェアして刺激し合った方がよさそうだ、というマインドになると思いますし、社内のスムーズな報連相にもつながります。雑談力も上がるだろうし、業務指示や1on1での面談でのコミュニケーションも的確になると思いますよ。
――大喜利のお題を作ったり、問いを作る側の視点も勉強になりそうですね。
山本:
大喜利の効果を最大化するためには、目的に応じたお題、小道具、MCを用意するあります。それぞれのチームや組織に最適化したお題、まさに「問いの質」が重要です。これを応用して、僕のやっているマネージャー向けの研修では、皆さんに「大喜利のお題を考えてもらう」体験を通して、問いの質について考える、質問力を向上する、というプログラムも用意しています。
勤労感謝ウィークで「おしごと大喜利フェス」を開催
――ランスタッドでは「勤労感謝ウィーク」の一貫として、山本さんにお力添えいただき、「おしごと大喜利フェス」を開催することになりました。Xのキャンペーンで募集予定のお題は、山本さんからみていかがでしょうか?
山本:
このお題は興味深いですね。「疲れた、もう仕事したくない。」という、ネガティブな印象をポジティブに言い換えるものは、ちょっと難易度が高いお題だと思います。「嫌だね」を共感させるより「いいね」を共感させる方が、ハードルが高いんですよね。あとは、お題については他人事であればあるほど自由な発想が生まれやすいのですが、このお題はどうしても自分ごとになりがちなので、そういう意味でも簡単ではない。
一方で、このお題にどんな回答が集まるのか?という期待もあります。ボケの切り口としては、いろんなベクトルがありそうですが、僕であれば「疲れた、もう仕事したくない。の後にどんなことを言うか」をまず考えるかな。疲れてもう仕事したくない人がどうすればポジティブになるのか、…という解決思考だけでなく、この後にどんな言葉が続くんだろう、っていうシンプルな未来志向でも考えてみてほしいですね。
あとは先ほどもお話したように、普通のことを具体的にして、一歩踏み込んでみる。普通の向こう側に行く?ような感覚を持っておくと、ウィットに富んだアイデアが思いつくのではないでしょうか。思いついたことが普通のことでも、それを捨てずに活用してほしいです。
みなさんのポジティブな回答が楽しみだなと思います!
――山本さんには、この大喜利フェスのファシリテーターとしてもご参加いただきますが、「勤労感謝の日」についてイメージや考えていることがあったら教えてください。
山本:
子どもの頃は、勤労感謝の日というと「お父さん、働いてくれてありがとう」みたいに、働いていない側が働いている側への感謝を伝えるものというイメージがありました。
でも、大人になってからは、「その仕事を担ってくれてありがとう」とか「一緒に仕事をしてくれてありがとう」のように、働いている人同士が互いに感謝の気持ちやギフトを交換し合う機会にしてもいいのかもと考えていたんです。そういう方が、今の世の中に向いているんじゃないのかなと。
先ほど、大喜利を通して他者へのリスペクトが醸成される話をさせていただきましたが、同じお題で大喜利をするということは、影響をくれてありがとう、ボケを受け取ってくれてありがとう、楽しんでくれてありがとう、発想をシェアしてくれてありがとう、笑わせてくれてありがとうという気持ちがあると思うんです。共創できる関係というのは、相手に対するリスペクトがあればあるほどいいものができるので。
「勤労感謝ウィーク」として職場内で互いに感謝の交換ができるような企画に取り組んでいると聞いて、僕が大切にしていること同じだなと感じました。
――そうおっしゃっていただけてうれしいです!
山本:
今回のお題についても、誰かと一緒に考えて、「私はこんなことを考えている」とか「こんなの思いついちゃった」と交換し合う状況が生まれて、そこからインスパイアされてさらに新しいアイディアが生まれたらいいですよね。
誰かのボケに影響されちゃったら、もう素直にインスパイアされちゃうのがいいと思います。なるべく面白いものを探して見つけて、そこから新しい発想が作れたらハッピーだし、それがリスペクトにもつながると思うんです。そうやってお互いの発信性や受信性が上がることで、自然と隣の人に「ありがとう、これからもよろしく!」と言える関係につながっていくのだと思います。
――今回はインタビューのお時間をいただき、ありがとうございました!
大喜利のX(旧Twitter)キャンペーンについて
最後に改めて、ランスタッドが開催する「勤労感謝ウィーク」の一環で実施している「第一回おしごと大喜利フェス」にて、大喜利投稿キャンペーンを、10月25日(金)から31日(木)まで開催いたします。
優秀作品を投稿いただいた25名様にアソビュー「ONSEN TICKET Special」がプレゼントされるほか、特設サイトおよび11月12日(火)開催のPRイベントでも作品が紹介される予定です。
「働くこと」について、笑いを交えた回答をシェアし合い、多くの方々と交流できればと思っています。
おひとりにつき何度でもご参加いただけるキャンペーンですので、ぜひお気軽に投稿いただけることを楽しみにしています♪
「勤労感謝ウィーク」は働く人に、働く自分に、そしてそれを支える人たちに感謝を伝え合いましょうと呼びかけるプロジェクトで、「ありがとう」と伝え合うことを大事にしたい企業の輪を日本全国に広げることを目指しています。
それでは、皆さまからの大喜利投稿をお待ちしております!
取材:安田和代、長谷川美果
執筆:花沢亜衣
編集:水野圭輔、長谷川美果