8年前、生意気で難あり新卒だった私が、Y先輩のおかげで丸くなった話
新卒で入った会社で、私は完全に生意気でめんどくさい新人だった。
当時の私は、こんなような浅はか単純な理由で、社員数4万人くらいの大きなITコンサル会社に就職した。
「希望は聞くが、配属はランダムで決まる」といわれた新人配属の振り分けでは、当時100名くらいの営業部を統括していた専務宛てに「私はA部署がいいです、異論は認めません」ばりのメールをTOで送りつけた。
(のちに、そのメールは全マネージャー陣に展開され、晒し者になったと聞いた)
そして生意気にも希望した部署に配属されたは良いものの、OJTのペアになったK先輩とどうしてもウマが合わなくなり、勝手にOJTのペアじゃないY先輩にしか同行を頼まなくなり、大型案件のコンペに入り込むことに成功したり。
どうにかその月に間に合わせたかった受注が、経理との手続きの関係でギリギリ間に合わず、「あの経理のせいで‥‥!!」と、完全に他責の被害者ヅラでトイレで大泣きしたりした。(でもその後、その経理さんとめちゃくちゃ仲良くなってサシ飲みしたりもした)
もしかして、わたしって難あり新卒?????
今思えば、もう少しまわりの出方を伺うことができていれば、まわりにも配慮した立ち回りができたかもしれない。相手のせいだ!と思わずに、自分の接し方や行動に改善できることが本当にないのかを見直せたかもしれない。
正直、自分みたいな部下がやってきたら扱いづらいしめんどくさいだろうなと思うけれど、その当時は至って真剣に難あり行動を繰り返していた。
でも、そんな新卒でも、自分のできなさや不甲斐なさを身に沁みて実感して、自分の行いを悔いて、心を入れ替えてがんばろうと思うような経験の1つや2つを通して丸くなる。
今日は、そんな思い出話をしようと思います。はせがわです。
コレジャナイ感しかないOJT
専務に直談判してまで希望を通して配属された、A部署。
そこで私のOJTを担当してくれたのは、5つくらい上のK先輩だった。K先輩は、いつもオフィスのイスを限界ギリギリまで下げて、そこにほぼ寝ているかのような体制で腰かけて座っているような人。しかも、その態度で勤務時間中にフツーにスマホゲームを嗜まれていた。(要するに、ありとあらゆる姿勢が悪くみえた)
当時の私は、「なんだその態度は!!シャキっとせんか、シャキっと!!ってか、働いてくれ!!!」という気持ちでいっぱいだった。(何様)
色々な意味で、こんな人に指導されるなんて‥‥?と思っていた。
ただ断っておくけれど、K先輩にもすごいところはある。
それは"自分が働かなくてもいいようにする仕組みをつくる力"だ。
これまでの話だけを切り取ると、K先輩は、全くなにもしない/できない、冴えない先輩なのかと思うかもしれないが、実は全然ちがったのだ。
"実は"の部分は、私も配属されて3ヶ月くらいの間は知らされていなかった。
でも、ある日、K先輩の生活態度にいよいよ見かねて「先輩もっと営業してくださいよ〜、かっこいいところ見たいですよ〜」と言っていたら、K先輩からさらっと返された言葉で、その衝撃の事実を知るのである。
彼は毎年、年度初めになった瞬間に、彼に課せられる1年間の予算を達成するという鬼の仕組みを作り出していたのだ。
いくら生活態度が「???」であっても、彼は予算を達成している。営業部にとって、予算達成は正義。ならば、彼は正義なのだ。だから、まわりの他の人や部長が彼に何も言わないのか‥‥と納得がいった。
ぐぬぬぬぬぬぬ。絶対間違ってると思うのに、何もいえないのが悔しい。
そして、当時の私からすると、彼が作り出した仕組みは再現性があるものだとは考えづらく、私がお手本とするには難易度が高かった。
うーん。お手本になるような先輩はどこかにおらんかね。(生意気かつ他責)
こういう人になりたい!と思えるY先輩との出会い
Y先輩は、同じくA部署の10個上くらいの先輩だった。部長の次に年長者で、その下はK先輩。A部署には中堅と呼べる先輩がY先輩しかいなかった。
Y先輩は、もの静かで冷静で論理的、かつ同行した訪問先でもクライアント担当者の方へのヒアリングや提案をしっかりとされている印象だった。
あ、この人では???私のお手本、この人では????
私は静かでも冷静でも論理的でもなかったので、自分が持っていないものを持っている人へのあこがれも相まって、Y先輩を完全にロックオンし、アポが取れるたびにY先輩を連れ回した。
(Y先輩の仕事もあっただろうに、嫌な顔ひとつせずに対応していただいたY先輩はすごく優しいのだ)
そんなある日、私が新卒の就職活動のときに、他のどんな会社よりも一番行きたくて第一志望にしていた会社(でも筆記試験であっさり落ちた)に行くアポが取れた。
これはもう、Y先輩と行くしかない!という事案だった。
あこがれの会社の大型コンペに参加する
訪問先はIT系の部署。Y先輩にも「私、本当はここの会社に行きたかったんです!!(筆記で落ちたけど)」と伝え、2人で気合を入れて行った。
とはいえ私はお飾りみたいなもので、訪問して話をメインで進行してくれるのはY先輩。Y先輩のおかげで、初回訪問でいくらかクライアント担当者のNさんとも関係が築けて、次の訪問も決まった。(次のアポがすんなり取れるって、うちの会社ではすごいことなのだ)
それから何度か訪問していくうちに、「もしかして、今度コンペがあるかも」という話を相手方からいただくことになった。
担当者のNさんから、さらに詳しい話をヒアリングした帰り道、いつも冷静なY先輩が、めずらしく目を輝かせて私にこう言った。
「この案件、受注できたら1億円…。いや、それ以上になるかもしれないよ!」
当時、1年目の私に課されていた予算目標は1,000万円。この案件が受注できたら、ざっと私10人分の活躍になる。
「がんばります!!!!!!!!!」
そうはいったものの、実際に何をがんばれば良いのかもよくわかっていない私だったけれど、あこがれの会社とお近づきになれることも、大型案件と呼ばれる1億円以上の案件を引き当てた(ほぼY先輩のおかげ)ことも、Y先輩が喜んでくれたことも、全部嬉しかった。とにかく、がんばろうと思った。
右も左もわからない悔しさにぶつかる
1億円以上の大型案件ともなると、営業部門の私たちだけでなく、実際に受注した後にサービスを供給する側の部門の人たちも提案書作成に加わる。
急に大きなプロジェクトの様相を呈してきた"あこがれの会社の案件"。
社内会議では、自社の略語なのか、世間一般で使われている略語なのか、どこの業界用語なのか、よくわからない言葉が飛び交った。(そのたびにググっては忘れを繰り返した)
クライアントから共有を受けた提案依頼書や要件定義書は、漢字が多すぎて、枚数も多すぎて、脳の処理能力を超えて、もはや外国語で書かれた本のように思えてそっと閉じた。
私の脳が限界を迎える中、Y先輩はいつもこの案件の社内外の会議に一緒に出て、仕切ってくれていた。すごくありがたかった。でも、ありがたさと同時に、「私なんにも役に立ってないな、悔しいな」と思った。
そう思って悔しかったけど、でもやっぱりみんながやってること、進めていることの意味がどうしてもわからなくて悲しかった。
自分が目標にしていた、尊敬している先輩にド正論をいわれて、自分のできなさが恥ずかしくて不甲斐なくて悔しかった。
でも、その通りなんだよね。一つずつやるしかない。
難あり新卒だった私は、この一言から"すぐに匙を投げずに、わからないことに一つずつ向き合っていく姿勢"を学んだ。
"チーム戦"だけど、やっぱり不甲斐ない
提案に向けて案件が進むにつれて、わからないことも一歩ずつ理解して、ほんの少しずつだけどY先輩から仕事を依頼されるようになり、それに対応できるようになってきた。
例えば、データの集計。膨大なデータの中から、必要なデータを仕分ける作業。提案依頼書の中身を一覧化して、必要要件をチェックリストにすること。資料の微調整、先方への連絡、社内のプロジェクトメンバーへの伝達、会議の調整‥‥などなど。
でも、提案するコアな内容になるサービスの要件を社内で話し合って決めたり、実際に提案書の中身をつくっていくのはY先輩だった。
そんな中やってきた、提案書の提出締め切り前夜。
結構前から準備を進めていたから、もう資料は完成間近かと思いきやギリギリまで調整が入り、スケジュールはカツカツ。前夜の資料完成度は、おおよそ6割くらいだった。
やばい。提出に間に合わないかもしれない。
メインで資料をつくってくれていたのはY先輩だったから、私がそんなことを思うのは勝手すぎるのだけど、表面上、この案件は私がとってきた案件で、私が担当だった。
そう。実は、この案件をいくらサポートしたとしても、Y先輩は自分の数字には一切ならない。
チームの数字には貢献できるけど、個人の評価対象になるのは自分の数字状況のみなので、Y先輩にとっては完全に善意のサポートだった。
戦力外通告とも受けとれる言葉だったけれど、その頃には"自分がそもそも戦力にすらなっていないこと"を日々痛感していたから、もはや傷つかなかった。
でも、ただの善意でサポートしてくれているY先輩に仕事をお願いして、本来の担当である私は家に帰るということが、ただただ申し訳なかった。でも申し訳ないからといって、そこに突っ立っていたって私には何もできないこともわかった。
私にできることなんて何もないから、せめて明るく、せめて元気に。
それくらいしかできない自分が悔しかったけど、そう伝えて帰るのが精一杯だった。
今の自分にできる精一杯をやる
次の日の朝、Y先輩が好きな缶コーヒーとおにぎりと、おいしそうだったクッキーを買って、1番に会社に行った。
Y先輩は、一睡もせずにPCの前で作業を続けていて、それを目の当たりにして改めて、こんなに大きな恩を一体どうやって返せばいいんだろうと思った。
でも次の瞬間には、これはもう私がこの先に誰かの先輩になったときに、こうやってサポートができる先輩になるしかないなと心に誓っていた。
そして、Y先輩のおかげで、無事に期限に間に合うように提案書を提出することができた。
* * *
提案書を提出してからは、ありがたいことに少しだけ自分の役割が増えた。それは、担当者のNさんに今のクライアント内の状況をこまめにお伺いすることだった。
他にコンペに参加している企業の提案状況や、各社の提案についてのクライアント内での検討状況、懸念事項などを、電話やメールや会いに行ったり‥‥、あらゆる手段で確認してくる役割。
それだって相当たどたどしかったし、Y先輩にもめちゃくちゃ確認しながらだったけれど、でもなんとかこの案件の中で初めて明確に得られた役割だった。
今から振り返れば、これはたぶん、私みたいな新人がやるほうが、中堅のY先輩がやるよりも担当者のNさんも話しやすかったのではないかと思う。(今思えば、担当者のNさんも、相当やさしく色々と教えてくださっていた)
私がY先輩にしてもらったことの大きさに比べればちっぽけだけど、だからこそ少しでも恩返しがしたくて、目の前のことに精一杯に取り組んだ。
数年ごしの伏線を回収していく
これだけ語られたら、そろそろ結果も気になってくると思うのだけど、「こんなにアツく語れるってことは、受注したんでしょ!」って思った???(どこ目線なの)
でも、結果は失注だった。
ただ、担当者のNさんもすごく丁寧に接してくださったので、不思議と悲しみはそこまで強くなくて、初めての大型案件の提案を最初から最後まで、ひとまずやり切れたことへの安堵のほうが強かった。
Y先輩と苦楽を共に(私目線)して、"案件"がどうやってやってカタチになっていくのかを目の当たりにして、なにもできない自分が心底悔しくなって。
私の社会人としての最初の経験がギュッと詰まった、一生忘れることのない大切な案件。
この提案は、社内の優秀提案表彰に選ばれた。コンペには負けてしまったけれど、会社からもポジティブな評価をしてもらえたことが嬉しかった。
* * *
あの時から、もう何年も経って。
今は私もY先輩も転職して別々の会社に勤めて、頻繁に連絡を取ることもないけれど、1-2年ほど前に当時同じチームだった同期やY先輩と集まって、久しぶりに食事をする機会があった。
そのときに、今もその会社に勤めている同期から聞いたことが、すごく嬉しくて、ずっと心に残っている。
その言葉を聞いて嬉しかったし、自分がやってきたことが、こんなかたちで報われることもあるんだなと思った。
新卒の頃の私は、結局なにもできなかったけれど、がんばって取った、あこがれの会社へのアポイントが、今、こんな風につながってるよ。
Nさん、あのときの言葉を実現してくださり、ありがとうございます。
まさか伏線回収ができるとは思っていなくて、新卒の頃にたくさん足掻いて、悔しい思いを味わった当時の私自身と、それを横でずっと支えてくださったY先輩とも喜びを分かち合った。
あの頃の私が、お手本にしたいと思ってくれるような私でありたい
生意気で難ありだった新卒の私。そんな私のこともまるっと受け入れてくれていた懐の大きい先輩、チーム、会社。
口だけ、態度だけデカくて、何もできない自分のことが悔しくて悲しくてつらかったけれど、その一つひとつだって、最終的には自分の学びになる。
生意気だったことも、他責にしたことも、今から振り返れば全部必要な過程だったと思う。
私は今年、社会に出て8年目になる。
もう、私が新卒だったときに一番最初にOJT担当になってくれたK先輩の当時の年齢もとっくに超えて、もう少ししたらあの頃のY先輩と同じくらいの年齢になる。
私は、あの頃の私がお手本にしたい!と思ってくれるような私になれているだろうか。
やっぱり、Y先輩ほど、もの静かで冷静で論理的ではないけれど。
私なりの良さみたいなものも多少はあるんじゃないかと思うけれど。
どうだろうな〜〜〜〜。
まだまだ色んな至らなさがあるけれど、今の私は仕事をしているときもプライベートのときも、自分がやることに責任とプライドを持とうと努めている。そして、そんな私のことを好きだなあと思う。
難ありでも、難ありなりに着実に進化できてるよ。
(生意気さは、もしかしてもっと強化されてるかもしれないけど)
もしかしたら、新卒の頃のあなたがお手本にしたいと思うのは今の私とは別の人かもしれないけれど、どんな人をお手本にしたっていいし、反面教師にしたっていい。
8年後の私は、当時あなたが必死にがんばっていた姿を宝物として大切に記憶しています。だから、これからもがんばってね。がんばっていこうね。応援しています。
<ライター:はせがわ>
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