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桜の約束~あの時わたしを助けてくれた福祉事務所相談員のKさんへ

前略 Kさん、ご無沙汰していますがお元気ですか?
わたしは今、障害者就労支援センターのNさんのお世話になり、ランスタッドさいたま支店というところで、日々お仕事をさせていただいています。ウソのようですが、週5日、フルタイムの勤務です。

初めてKさんにお電話いただいた時、わたしはまだ家から出ることができず、引きこもり真っ最中でしたね。主治医の先生ともろくに話をしなくなっていたわたしと根気強く会話をしてくださるKさんに、今から思えばずいぶん失礼な対応をしていました。
当時のわたしはいろいろ投げやりで、知らない人とお話をするなんてハードルが高かったのです。今更ですが謝らせてください。ごめんなさい。

そんなわたしに、折に触れて連絡をくださるKさんと、桜の話をしたのは何度目のお電話だったでしょう?不思議とわたしは「少し先のこと」を久しぶりにイメージすることができ、思わず「今年は桜の花、見たいかな……」とつぶやいていました。
聞いた瞬間、あなたがとても喜んで、「それはステキな目標ですね」と言ってくださったときのこと、今でもはっきり覚えています。そのやり取りが、わたしが引きこもりを脱出する最初の一歩になるとは、その時まだ想像できませんでしたけど。

人が大きく動く時の動機は様々だと思いますが、「誰かのため」というのは、とても力が出るものです。わたしはKさんの「その目標がかなうといいですね」という言葉を、桜が咲くまでの数か月かみしめました。

そうしていよいよ桜のつぼみが膨らんでくると、わたしは「Kさんによい報告をしたい」と思い始めていました。桜が満開になった日の晩、その一心で、わたしは2年間通過できなかった玄関を通り抜け、Kさんもよくご存じの桜並木をゆっくりと歩いたのでした。夜なのに、桜の下でご機嫌な人たちの群れはとてもまぶしく感じたのを覚えています。

はじめてお目にかかったのは、家庭訪問に来ていただいた時でしたね。お電話でお話ししているときと何も変わらず、あの長い坂の下にあった、とても古くて粗末な部屋。Kさんがわたしと対峙してくださったとき、わたしはまた無条件に「この人のために頑張りたい」と思っていました。決してあなたが「頑張って」といったわけではなかったのに、です。そんなKさんの「他人に寄り添う」姿勢は、今のわたしの仕事のお手本にもなっています

それからあなたの手引きで、わたしはたくさんの支援者とつながっていきました。いろいろなところに一緒に行きましたね。そうした場所でのリハビリで、ずいぶんたくさんのことができるようになりました。

一番に報告したいのは、電車に普通に乗れるようになったことです。Kさんと出会った頃のわたしは人混みがまるでだめで、電車に乗ることもできませんでしたよね。それを地域活動支援センターEH(仮称)の皆さんが一緒に訓練してくれ、徐々に大丈夫になっていきました。最初は小さい発作が出てすぐに電車を降りたり、目的地に無事つくことができたらできたで、安堵の涙をながすような有様でしたけれど。
それでも何とか電車に乗れるようになると、行動の幅が広がっていきました。

大好きだったのに、できなくなっていた野球観戦にも、また行けるようになりました。もちろんひいきのチームの応援です。帰りはユニホームを着たままご機嫌でした。

東京体育館で開かれた、障害者福祉事業所対抗のバレーボール大会にも電車に乗っていきました。結果は撃沈でしたけど、楽しい思い出です。

電車での移動が可能になったので、本格就労を見据えた、時短のアルバイトを始めることもいつしかできるようになっていきました。
そういえば、これもKさんのアドバイスでしたね。ある就労移行支援事業所に一緒に見学に行ったとき、「週5日通えることが条件」と言われ、まだまだそんな体力がなく、落ち込むわたしに「障害者枠なら、時短からお仕事を始めた人もたくさんいますよ。まずは時短でもお仕事的なことができるようになればOKです」と言ってくださったことが、その後のわたしの心の支えでした。

週5日の仕事が最初に決まった時、あなたは何度も「すごい、すごい」といってくれました。そしてそれが最後になってしまいました。本格的に仕事を始めたわたしの支援の中心が、障害者就労支援センターに移っていったからでしたが、わたしはいつも「ここまでこれたのはKさんのお陰」と思い続けていました。

あの頃からいろいろなことが変わりました。
わたしが閉じこもっていた坂の下の部屋は、取り壊されて今はもうありません。まるで誰かに「あの部屋に住んでいた間の出来事は、もう過去のことなのだ」といわれているような気がします。もちろん、なかったこと、ではなく、昔のこと、終わったことという意味です。だからわたしは引きこもりだった自分を客観的にみることができるようになりました。
そしてわたしも縁あって、Kさんと出会ったX区から埼玉県に転居しました。

そうそう、いつかわたしが「キャリアカウンセラーの資格を取りたかった」と話したのを覚えていますか?あの頃は、「挫折した夢」として登場していた民間資格でしたが、今は「キャリアコンサルタント」という国家資格になっていて、なんと今、その資格取得にチャレンジ真っ最中なのです。

お金も時間も、気力も体力も必要ですが、何とかそれらをクリアできそうになったので、チャレンジを決めました。あの頃、「諦めたこと」にカウントされていたことに今チャレンジできるなんて、本当に夢のようです。

どれもこれも、Kさんとの「桜の約束」がスタート地点でした。そして今もわたしは前に進む時、「Kさんによい報告ができるといいな」と癖のように思うのです。それで今、こんな風にお手紙を書いています。

今のわたしは、今の自分が一番好きだと思いながら日々過ごしています。こんな報告ができるようになったことを、喜んでいただけると嬉しいです。

夏の終わりに。
草々

ライター:りぽち

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