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誠実に仕事へ取り組むことを教えてくれたMさんのこと

今では、人材関係のお仕事が天職でライフワーク、と思っているわたしですが、社会人のスタート1年目は、なんと、証券会社の営業職でした。
そこで最初に仕えたのが、Mさんでした。わたしは本当に配属直後から、毎日のように怒られていました。けれどそのことが、現在のわたしにつながっています。今日はそんな話をしたいと思います。


毎日泣いて暮らした新人の頃

今からずっと前、わたしは新社会人として証券会社に入社し、営業担当として、本店営業部というところに配属されました。本店の営業部はどちらかと言えば出来のイイ人が配属される部署と言われていたのですが、その年そのポジションにわたしが配属されたのは、何かの間違いでした。実際、配属後わたしは毎日泣いて暮らすことになるのです。

そこで出会ったのが、Mさんです。
Mさんはわたしの上司にして、社内のトップセールスでした。

わたしが在籍していた当時、証券会社では「数字=人格」と言われるほど、数字を稼ぐ人が人格的にも優れている、と判断されるような風潮がありました。ですから、日に何百万円と稼ぐMさんは、今風の言葉で言えば、まさに社内の「神」でした。要するに絶対的存在だったのです。

実際、取引時間中の彼は、ひりひりするような緊張感を漂わせていて、うかつに話しかけることもできませんでした。でも、その時間の方がわたしには助かっていました。Mさんが相場の動きに集中している間は、わたしにあまり関心がないからです。
怖かったのは、取引時間が終わってからでした。彼はわたしの方を向いて、聞くのです。

「今日、いくら稼いだ?」

聞き飽きるほどの会話と、本当の目的

新人のわたしは顧客もそれほどいるわけではなく、数字をあげられる日の方が少ない状態でしたから、たいてい「マル(証券会社では「ゼロ」のことをこう言っていました)です」と小さな声で答えます。そうするとMさんは強い口調でいいました。

「お前は、営業担当としてここに配属されたんだ。営業担当が一円も稼げなかった、というのは、今日一日、お前は会社に損をさせたということなんだぞ」
「お前は今日の分も給料をもらうし、電話も掛けただろう、その分は会社の損失だ」

もう本当に聞き飽きるくらい、マルの日は同じことを言われました。
少し、稼ぎがあった日はあった日で、言われることは決まっていました。
「お前に払われている給料の4倍か5倍稼いで、ようやくお前のコストはトントンだからな」


そんな毎日でしたから、新社会人の一年目は本当にいつもいつも泣いていました。お客さんを獲得するのにも、テレアポや飛び込み営業をしていましたから、そこでも泣いていました。いったいどうすれば、ひとりの社会人として認めてもらえるのだろう、と自問自答し続けていました。

実は、この「ひとりの社会人として認めてもらうため」の自問自答、今でも癖のようになっています。それはわたしにとって、仕事に対してどれだけ誠実でいられるか、ということに結びついているのです。そして、恐らくそのように自問自答することを習慣づけることこそがMさんが一番わたしに対して伝えたかったことなのでした。でも、そんなMさんの思惑を知るのは、もっとずっと後のことになります。

転勤して、再会して

二年目に入って少ししたとき、わたしは突然、支店への転勤を命じられ、それ以降は別の上司に仕えることになりました。

支店は支店で、本店にはない大変さがあり、月日はあっという間に流れていきました。その間、お会いすることはなくとも、Mさんは本店営業部のトップセールスであり続けていました。

そんなMさんとまた同じ場所で仕事をするときが、思いもかけずやってきます。わたしの所属支店が、本店営業部に吸収されることになったのです。わたしはそれを機に退職を決めましたが引継ぎだけはしてほしい、ということで一ヶ月だけの限定で本店営業部に出戻りました。
Mさんは相変わらず、取引時間中はヒリつくような緊張感の中にいて近寄りがたく、取引時間が終わるとわたしは条件反射のように身構えていました。そこで怒られるのが習慣でしたから。

わたしはいつまた怒られるだろう、と新人だった時を思い出してはちらちらとMさんの様子を伺っていました。でも、どういうわけか、Mさんは黙っていました。わたしの方を見ている気配はあるのに、です。なんだか胸がざわざわしたまま、約束の一ヶ月は過ぎました。

ひとりの社会人として、仲間入りを果たした日

いよいよわたしの最終出勤日のことです。ささやかな送別会が開かれ、最後にわたしが挨拶をしてお開き、という場面でMさんが手を挙げて言いました。

「ちょっと一言いいかな?」

わたしは本当にドキドキして、最後の最後に何を怒られるのだろう、とこわごわとMさんを見つめました。Mさんは言いました。

「この一ヶ月、君を見ていて、本当に感激した。支店長、次長の教育もあったろうが、よくそれに応えてここまで成長してくれた。お礼を言わせてほしい。ありがとう」

ほっとしたあまり、涙を流したのは言うまでもありません。
そして、わたしはようやくひとりの社会人として、仲間入りを果たした気になれたのでした。

今ならわかります。新社会人の時、あれだけ毎日のように怒られたのは、本当に本気で、わたしをちゃんとした社会人にしようとしてくれたからでした。だって、怒ることはとてもエネルギーのいることです。そのエネルギーを感じたからこそ、わたしも本気でこたえる気持ちになれたのです。

あとになってからわかる出会いもある

厳しく躾ける、なんて今は時代遅れのやり方かもしれません。それでも新社会人の時、Mさんがわたしを鍛えてくれたおかげで、その後のわたしはどこに行っても、誠意をもってお仕事をすることが何より大事だと思うことができました。もちろん、Mさんが取引時間中に見せていた真剣な背中も、いまだにわたしに喝を入れてくれています。だからわたしは思っています。
新社会人として最初に鍛えてもらったのが、Mさんでよかった、と。

これを読んでくださったあなたにも、あとになってからわかる素敵な出会いがありますように。

<ライター:りぽち>


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