「すべては知ることから始まる」障がい者雇用担当者が考える、マジョリティとマイノリティのつながりの作法
世界で最も公平で専門性を備えた人材会社を目指すランスタッドにおいて、エクイティ、ダイバーシティ&インクルージョン(ED&I)はとても重要な取り組みの一つです。
今回は、ランスタッドの人事本部で障がい者の自社採用を担当するあきさんに話を聞きました。ご自身も統合失調症という特性を持っているあきさん。ランスタッドの障がい者採用担当者となった経緯、ERG*での活動、そして障がい者雇用に対しての想いを聞きました。
*エンプロイーリソースグループEmployee Resource Group(社員による自発的な活動グループ)
「はまらない人が、どうはまっていくのか」地域への関心が障がい者雇用に向くまで
――あきさんは2024年の3月に入社されたんですよね。ランスタッドには、どんな経緯で入社されたんですか?
前職から障がい者雇用を担当していたのですが、今後もライフワークにしたいという想いがありました。さらに英語が使える仕事をしたい気持ちもあって。障がい者雇用かつ英語が使える仕事となると選択肢はあまり多くないのですが、タイミングよくランスタッドの求人があったんです。今年の3月1日にランスタッドに入社し、今は障がいのある方の採用を担当しています。
――以前から障がい者雇用を担当されていたとのことですが、障がい者雇用に興味を持つきっかけはなにかあったのでしょうか?
実は、僕自身も統合失調症と呼ばれる障がいを持っているんです。
幻聴幻覚や感情のアップダウンといった陽性症状は薬を飲めばあらわれないのですが、気分が沈み込むような陰性症状が出ることがときどきあります。あとは、細かい数字を見ていると入力ミスが起きたりする認知機能障がいがあります。
この障がいを持ったのは、27歳のときでした。
大学院在籍中に研究の無理がたたって統合失調症と診断されたんです。当時は自分の研究のために、月に1度は地方に調査に行きながら、週に3、4回は授業のアシスタントをするという忙しい生活をしていたのですが、あるときから不安が収まらない、眠れないというような症状が出てきて。統合失調症は精神障がいのカテゴリーに入る病気で、一度なると寛解はするけど、完治はしない。ずっと付き合っていく必要がある病気ですね。
本当はそのまま大学に残って、先生になろうと考えてもいたのですが、シフトチェンジして就職する選択をしたのが28歳の頃でした。
――そうだったんですね。ちなみに、大学院ではどんなことを研究されていたのですか?
「地域が続いていくための条件は何か?」というような、地域の持続性についての研究をしていました。これは、自分自身のルーツや幼少期に育ってきた環境もあって、気づけば自分の中に問いが立っていたテーマでしたね。
私は3歳から6歳までの3年間をアメリカで過ごしたのですが、アメリカでの経験は自分のルーツになっています。でも、アメリカで育った自分が小学校にあがるタイミングで日本に帰ってきたときに、日本の小学校の文化や雰囲気にぜんぜん馴染めなかったんですよね。
そんな自分をどこか所在なく感じる一方、私の実家はその地方で地域に根付いた商売をしている家でした。なので、先生や友人からは「◯◯の店のあきさん」「あきさんの家はすごいね」と言われることも多々ありました。そう言われる理由が自分ではよくわからなくて、どこにいてもどっちつかずな気持ちがずっとあったんです。
そんな経験もあり、「よそ者が地域に関わっていくとき、その地域を持続させることはできるのか?」という問いを持ち、学生時代から研究をはじめました。
――どこかよそ者として外側から地域を見ている一方で、深く地域の内側に属しているような、相反する2つの気持ちをお持ちだったんですね。実際に研究してみて、見方は変わりましたか?
みんな、裏で汗をかいているのだと実感できたことが一番大きかったです。外から見ているだけの人が、「うまくいっていないから、これは良くない」と切り捨てられるような簡単な話ではなく、お互いの想いを共有したり、対話したりする中で、一歩ずつ進んでいくものなんだなと知りました。
――なんだかED&Iの話にも通じるような気がします。その研究のさなかに、統合失調症という特性を持つことになって、そこから人生が転換していきますね。
そうですね。病気になって大きく変わりました。特に性格は丸くなったと思います。それまでは自己中心的な個人能力主義で、人のことを考えるような人間ではなかったので(笑)。支えてくれる人の存在にも気づかずにイケイケだったと思います。
病気になったことで、社会では今の自分のやり方では通用しないんだと痛感しました。
何もできない自分と直面することはものすごく嫌でしたが、同時に諦めることも学びましたね。病気になった頃、まわりには自分より優秀な人がたくさんいて。でも、そういう優秀な人こそ、当時の自分のような個人能力主義ではなく、チームで成果を取りにいくようなやり方をしているのも感じていました。社会では、これまでの自分のやり方じゃ、この先やっていけなさそうだと悩んでいた時期でもありました。
自分が病気になって、大学に所属しているにも関わらず、思考も調査もなにもできない状態になって。それでも、何もできないなりに考え続けたいことは何だろうかと考えた結果、それが障がい者雇用だったんです。そこを命綱にして、手探りで進んだ結果、積み上がっていって今のキャリアにつながっています。
――どうして、そのときに障がい者雇用に興味を持ったんですか?
自分が病気になって今までよりも弱い立場になってみて、弱い自分だって生きているんだということを身をもって知ったからですね。でも、自分の中では興味の対象が一貫していると感じる部分もあります。
学生時代は地域や地元について、そして今は障がい者雇用について取り組んでいますが、これはつまり「はまらない人が、どうはまっていくのか」という問いに取り組むことだと思っています。自分自身が当事者としてマイノリティに属することが多かったからこそ、マイノリティの人が、マジョリティと手を取り合っていくための”つながりの作法”を探っていくことが、自分の中にある一貫したテーマだなと。
具体的に今の仕事に通じる部分でいえば、大多数の障がいを持ってない人と障がいを持っている人がいかにして手を取り合っていくのか、あるいはそのきっかけをいかにして広げていくのかが一番関心のあることですね。
自分の特性ときちんと向き合って言語化できることが大切
――ランスタッドで働く障がいを持った方々は、実際どんな働き方をしているのですか?
おそらく、みなさんが想像する以上にたくさんのポジションがあると思います。今、募集しているポジションだけでも30程度あり、複数名を募集しているポジションもあるので、実際にはさらに多くの方を採用するという目標があります。
また、障がい者雇用と聞くと、サポート職のようなものを想像される方も多いかもしれません。
もちろん、ランスタッドでも営業サポートのポジションなど、全国の拠点で募集しています。でも一方で、障がいの有無に関係なく、チームの全員が同じ仕事をしているというチームや、完全在宅でできるポジションなども募集していますね。
具体的には、採用情報をまとめたページあるので、詳細はそちらを確認いただけるといいのかなと思います。
――ありがとうございます。当事者でもあるあきさんからみて、障がいを持っている方が気持ちよく働き続けていくために大切なことは、どんなことだと思いますか?
障がいと一言で言ってしまうとわかりづらいですが、私は社会の側にある障がいと、個人の側にある障がいの2種類があると思っています。
社会の側にある障がいは、例えばバリアフリーになっていない建物などが挙げられます。個人の側にある障がいは、いわゆる本人の特性です。例えば、私の場合は「細かい数字を見ていると入力ミスが起きたりする(認知機能障がい)」ということが挙げられます。
そして、個人の障がいに対して向き合えるのは、自分自身しかいないんですよね。
「何かが苦手、できない」となったときに、どういう条件のもとであればできるのか、いくらか制御できるのかについて、自分自身で一度向き合う必要があると思います。
ただ、それは自分1人の力で向き合う必要はなくて、会社との調整で「この条件だったら大丈夫」というやり方をすり合わせていければいい。でも、自分自身の働きやすさのために自分の特性を正しく知って、きちんと向き合って言語化できることは大切だと個人的には思っています。
――確かに、それは障がいを持つ方以外でも当てはまる話だなと思いました。働いていると、ついできない理由を探して他責にしてしまいがちですが、できる方法を探していくことは大切ですよね。
そうなんです。人前で話すことが苦手とか、スケジュール管理がうまくできないとか、たぶん誰しもができないことや苦手なことってあると思います。そういう意味では、障がい者というカテゴリーで括る必要もないのかなと思います。
ただ、「すべて自責」としてしまうと、どこまで誰かに頼っていいのかが見えづらくなってしまうのは難しいところです。「すべてを自分の責任でがんばらなきゃいけない」という話ではありませんからね。でも、今の障がい者雇用の枠組みの中だと、どんな助けが必要かどうかは自分で言語化できなければいけないので、そのバランスをとるのは難しいですし、会社としてもさらに考えていくべき課題だなと思いますね。
――自分の状況を自分で把握して向き合えているかと、人の助けを適切に借りられるかは、障がいの有無にかかわらず働く上では大事なことですよね。
働く上で必要なスキルではありますよね。社会との間に障がいがあるのはその通りですが、そこに真の意味で向き合えるのは自分しかいない。その上で働くことを選ぶのであれば、自分の働きやすさを探す努力は必要だと思います。
基盤的環境整備とニューロダイバーシティ*の可能性
――マジョリティからするとマイノリティがどういう辛さを抱えているのか、正直想像できていない部分もあるかと思います。こういった問題に、私たちはどう向き合っていけばいいのでしょうか?
私は、誰かにとっての困りごとって、別の誰かの困りごとにもなりうると思っています。
例えば、とある建物は5階建てで階段しかないとします。その場合、車いすの方が5階まで行くのは難しそうだなと想像できますよね。でもそれ以外にも、小さなお子さんが自力で階段を上がる場合や、赤ちゃんを抱えているお母さんたちも、階段で5階まで上がるのは結構大変なことだと思いませんか?
こんな風に、あらゆる特性を持っている全員をベースに考えていくと、結果的にボトムラインが足りていないことに気づけるかもしれないですよね。この例は少し極端ですが、こうやって誰かの困りごとを深掘りして、解消できるような調整をしていくことを「基盤的環境整備」といいます。
個人的には、ニューロダイバーシティの視点で社会や環境をみていくと、基盤的環境整備がもっと進んでいくのではないかと思いますし、それは結果として、マジョリティの側からみてもより快適な社会や環境をつくることに繋がっていくと思いますね。
――そうなんですね。今、あきさんは障がいを持つ方の採用担当をしつつ、ニューロダイバーシティのERGのリーダーも担当されていますよね。
社員による自発的な活動を行うグループ(=ERG)は、女性のためのERG、LGBTQ当事者やアライの人たちが所属するERG、LGBTQ当事者だけのERG、聴覚障がい者のERG、ワーキングペアレンツERGです。そして、一番直近の2022年に立ち上がったのが、発達障がいや精神障がいを対象とした、ニューロダイバーシティERGです。
身体障がいの方は、課題は残りつつも相対的に採用が進んでいる現状があるのですが、発達障がい、精神障がいは比較的新しいトピックということもあり、思うように採用が進んでいないという現実があります。「世界で最も公平で専門的な人材サービス会社」を目指すランスタッドとして、発達障がい、精神障がいにもフォーカスしようということで、ニューロダイバーシティのERGが立ち上がりました。
――ニューロダイバーシティーのERGにはどんな方が参加しているんですか?
参加しているのは、発達・精神障がいの当事者、あとは身体障がいの方もいます。身体障がいの方は、どちらかというとサポートしたいという意味合いで参加してくださっていますね。あとは、健常者のサポーターの方もたくさんいます。
現在、約60人が在籍していて、定期開催のランチセッションには、毎回20人から25人ぐらいの方が自主的に参加してくださっています。
――ニューロダイバーシティのERGでは、どんな活動をされているのでしょうか?
発達障がいや精神障がいの基本的な知識をインプットしたり、マネージャー向け、当事者向けの対応マニュアルを作成したり、どうすればもっと障がいのある方も働きやすい環境にできるか、働き方を改善できるのかを一緒に考えたりしています。
あとは、安心できる居場所づくりも私たちの役割の一つです。居場所づくりのために、定期的なランチセッションを開催しています。普段は周囲の方に障がいについて話しづらい場合も、ERGの中では笑顔で自分の障がいについて話ができるような環境が生まれつつあります。
もう一つ、ビジネス側への働きかけも重要です。当事者が活躍しやすい環境をつくれるように働きかけをしたり、待遇改善、講演会などイベント企画も取り組んでいます。当事者も、当事者ではない方にも役立つようなことを計画しています。
――ニューロダイバーシティのERGで、今後取り組んでいきたいことはありますか?
問いを立て続ける場にしたいと思っています。合理的配慮と基盤的環境整備についての話をしましたが、基盤的環境整備が行き届いてないポイントに対して目を向けやすいのはマイノリティの側なんですよね。
ただ、そこに声を上げられる場はあまり多くないのが現状なので、このERGをそういう場にできたらいいなと思っています。「ここってもう少し何とかならないもんかね」という問いを立て続けること。お互いが他責にするのではなく、みんなで手を取り合って向き合っていける場があれば、みんなでハッピーになれるのではないかと思います。
そうやって問いを発見して向き合い続けることで、よりERG活動やED&Iが進んでいくのではないかと考えています。
マジョリティとマイノリティのつながりは知ることからはじまる
――これまでのお話しを伺って、「マイノリティとマジョリティが手を取り合う」ということが、あきさんのテーマなのかなと感じました。お互いに手を取り合うことが実現できると、どんな社会になると思いますか?
そうですね‥‥。誰もが肩の力を抜いて生きていける社会でしょうか。村松さんのインタビューにあったような、「ED&Iの担当がいなくてもいい社会」にもつながるんじゃないかなと思いました。
――そういう社会を実現するために、私たち個人ができることは何かありますか?
すべては自分やお互いを知ることから始まると思います。「つながりの作法」という言葉は、発達障がいの当事者たち、いわゆるマイノリティの側からマジョリティの側に働きかけるときに生まれた言葉です。
ただ、マイノリティの側からしか働きかけられないわけではなくて、マジョリティの側からもできることは沢山あります。その一歩目が、知ることなんだと思います。一見、他人事にみえることでも、実は自分にも関わることなんだと体感するとお互いの距離がグッと縮まるように思います。
かといって、「マイノリティに目を向けましょう」といわれても何から始めればいいのかって、わからないですよね。最初は私もわからなくて、場数を踏んで徐々に体感できた感じでした。なので、少しでも知ることに興味をもってくださっている方は、まずはいろいろ調べたりイベントに参加してみたり、社内ならERG活動に遊びに来てもらえると嬉しいですね。
――最後に、障がい者雇用の採用担当者としても何か伝えたいことがあればお願いします!
これは人事本部で採用責任者をされている西野雄介さんがお話しされていて、私もその通りだなと思っていることなのですが、ランスタッドは、日本で一番インクルーシブな会社になるポテンシャルを持っている会社だと思っています。
何か失敗があっても個人のせいにせずに、チームで考えるカルチャーがある。個人の判断に委ねる部分もあるけれど、バックアップはきちんとする。ランスタッドには、そんな組織文化が根付いています。なので、安心してランスタッドに飛び込んできてください。一緒にインクルーシブな会社を作りましょう!
――ありがとうございました!
取材:長谷川美果
執筆:花沢亜衣
編集:水野圭輔、長谷川美果